【考察】合理的な経営判断、今季限りで廃業するマウントジーンズ那須

スキー場 国内

2023年12月13日、東急リゾーツ&ステイ株式会社および株式会社ハンターマウンテン塩原は、運営するマウントジーンズ那須を今シーズンの終了をもって廃止すると発表しました。

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東急リゾーツ&ステイ株式会社

東急リゾーツ&ステイ株式会社は、東急グループ3社を統合して2020年7月1日に発足したリゾート施設運営会社です。
会員制リゾートホテルの東急ハーヴェストクラブの運営も行っています。
全国で9か所のスキー場の運営を行っていましたが、2022年7月1日にグランデコスノーリゾートの譲渡を行い、2023年3月31日をもって運営から撤退。
今シーズンを持って廃止が決定したマウントジーンズ那須は、子会社の株式会社ハンターマウンテン塩原を通して運営を行っていました。
余談ですが、ハンターマウンテン塩原は、東急リゾーツ&ステイ株式会社が直接運営を行っています。

運営スキー場:8か所

  • ニセコ東急 グラン・ヒラフ  :ニセコ東急リゾート株式会社
  • ハンターマウンテン塩原
  • マウントジーンズ那須   :株式会社ハンターマウンテン塩原
  • たんばらスキーパーク   :玉原東急リゾート株式会社
  • タングラムスキーサーカス
  • 蓼科東急スキー場
  • スキージャム勝山     :勝山高原開発株式会社
  • 富士見パノラマリゾート  (マネジメント契約)

2023/2024 スキー場運営会社 トップ10 はこちら

マウントジーンズ那須

1994年にオープンしたマウントジーンズ那須は、2024年3月10日をもって施設が廃止となります。
今シーズン、ジーンズペアリフト(No.4ペアリフト)が復活し、ゲレンデを拡張していくと思っていた矢先のことで大変驚いています。
スキーシーズンは7万人、グリーンシーズンは5万が訪れ、経営は黒字でした。
2021/22シーズンを最後に廃止となった那須温泉ファミリースキー場に続く撤退で、栃木県那須町からスキー場が無くなります。

(プレスリリース)マウントジーンズ那須 2023-2024 シーズン営業予定と施設閉場について はこちら
(ニュース)マウントジーンズ那須 今季限りで閉鎖を発表 閉鎖理由は「温暖化による雪不足」など はこちら

 

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スキー場を取り巻く環境と廃止理由

スキー場を取り巻く環境は厳しいものがあります。
今回の廃止の決定は複合的な要因で、経営母体がしっかりしている東急グループならでは英断だと思います。
スキー場を取り巻く環境について、主なものを上げていきます。

需要と供給

商品の販売やサービスの提供、ビジネスで黒字経営を行う上で需要と供給を見極めることは重要です。
ピーク時に1800万人いたスキー・スノーボード人口ですが、現在は600万人と1/3になりました。
一方、スキー場の数は、ピーク時に700か所以上あったと言われていますが、未だに500か所近くあり、需要と供給のバランスが著しく崩れています。

このような状況の中、スキー場は過当競争に勝ち抜くために積極的に投資を行い利用者を引き留めるか、撤退するかの二択を迫られています。
健全な企業であればどちらかの選択を行うわけですが、現実は第三の選択肢、問題の先送り、そして資金繰りに窮し倒産、全スキー場の半分以上を占める公営のスキー場の中には第四の選択肢、毎年億単位の税金を注ぎ続けて延命、ということがあり悲しい限りです。

施設・土地

リフトの耐用年数は30年ぐらいと言われています。
30年以上稼働しているリフトも多々ありますが、時間が経つほどメンテナンスに費用がかかるようになり、あまりに古いとメンテナンスのための部品が無くなることもあります。
センターハウスなど、鉄筋コンクリート造りの建物の耐用年数は100年と言われていますが、老朽化が進むので途中で何度も大規模な補修が必要になることから、法定耐用年数(31~50年)が過ぎた頃に建て替えを行うことも多々あります。

また、スキー場利用者にはなじみが無いと思いますが、スキー場は土地を借りて営業を行っていることがほとんどで、賃貸契約の終了前に原状復帰を行う必要があります。
これが大変で、リフトや建物の撤去はもちろん、ゲレンデに植林を行う必要もあり、数億円規模の費用がかかります。
これが、多くのスキー場が廃止とせず、運営再開が不可能な状態でも休業中としている理由です。

マウントジーンズ那須は開業からちょうど30年、設備の更新の時期に差し掛かっていました。

設備

スキー場を営業するには、圧雪車、スノーモービル、人工降雪機など多くの設備が必要です。
スキー場を廃止する場合は、設備の廃棄または売却の必要がありますが、東急リゾーツ&ステイの場合、運営する他のスキー場で転用できるため設備の有効活用が可能です。
マウントジーンズ那須では、最後のシーズンにも関わらず、人工降雪機を追加で導入しています。

気候変動

近年の気候変動による温暖化は、スキー場にとって死活問題で営業期間に大きく影響してきます。
今シーズンのマウントジーンズ那須の営業予定は、2023年12月23日から2024年3月10日までの79日間で、1年365日のたった22%でしかありません。
グリーンシーズンの営業を行うので、ゴンドラ等の一部の施設の稼働率はもっと高いと考えられますが、それにしても全体で考えた場合の稼働率は大変低いものになります。

好景気

長く続いたコロナの影響がなくなり、多くの業界では景気は回復しています。
利用者が増えることは良いことなのですが、スキー場にとっては頭の痛い問題が持ち上がってきます。
経済活動が活発になることで、全国的に多くの業種で人手が足りなくなりアルバイト料が急騰しています。
ニセコ東急 グラン・ヒラフで時給1650円以上で募集が行われるなど、時給が東京などの大都市を越えるスキー場が増えてきました。
もともとスキー場は冬季限定であるため、他の業種に比べ人を集めにくかったことに加え景気回復が重なりアルバイト募集に四苦八苦です。
このような状況の中、国境高原スノーパークなど、アルバイト不足を理由に今シーズンの営業を中止するスキー場もでてきました。

高騰するアルバイト料、定休日の設定、リフトの運休!! 人手不足に悩むスキー場の現状 はこちら


マウントジーンズ那須 HPより

 

最後に

上記のような状況を踏まえ経営分析を行い、マウントジーンズ那須の廃止が決まったのでないでしょうか。
加えて、近隣に系列スキー場があり、従業員の雇用を維持できるということも判断の一因になったと思います。
いずれにしても、黒字の内に廃止を決定したのは英断だと思います。

東急リゾーツ&ステイは、昨シーズンのグランデコの売却に続き、マウントジーンズ那須を廃止します。
西武グループのように方針を発表していませんが、スキー場経営から他の分野に軸足を移しているように思えます。
今後も買い手がいれば売却、いなければ閉鎖の流れが続くかもしれません。

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