37か所のスキー場を運営し、売上高2100億円を誇る巨大企業Vail Resorts。
今回は年次報告書の内容から、日米のスキー場運営会社の比較をして、国内スキー場再生の道を探りたいと思います。
スキー場関連の売上
年次報告書の売上セグメントは、スキー場関連、宿泊関連、不動産関連に分かれています。
そして、スキー場関連はさらにリフト券、スキースクール、レストラン、小売/レンタル、その他の5分野に分かれています。
昨シーズンは新型コロナウイルスの影響で、スキースクールやレストラン営業が制限されていたので、2019年8月~2020年7月の売上を見たいと思います。
リフト券の売上は、全売上の約半分しかありません。
利用者目線で言うと、リフト券が5,000円のスキー場に滑りに行った場合、リフト券を含めて10,000円を使うということになります。
一方、日本のスキー場、特に歴史のあるスキー場を想像してみてください。
スキー・スノーボードは宿でレンタルし、スキー場内に点在する食堂でランチをとり、そして宿の近くのお店でお土産を買います。
また、ほとんどのスキー場では、スキースクール運営は別組織です。
すなわち、スキー場での出費の半分しかスキー場運営会社に入らないことを意味しています。
この状態が日本のスキー場経営が苦しめている一因でることは、国土交通省観光庁調査でも明らかになっています。
売上 (単位:千ドル) |
2021年7月~ 2020年8月 |
2020年7月~ 2019年8月 |
2019年7月~ 2018年8月 |
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リフト券 | $1,076,578 | 64% | $913,091 | 53% | $1,033,234 | 53% |
スキースクール | $144,227 | 9% | $189,131 | 11% | $215,060 | 11% |
レストラン | $90,329 | 5% | $160,763 | 9% | $181,837 | 9% |
小売/レンタル | $227,993 | 13% | $270,299 | 16% | $320,267 | 16% |
その他 | $150,751 | 9% | $177,159 | 10% | $205,803 | 11% |
合計 | $1,689,878 | $1,710,443 | $1,956,201 |
シーズン券
2020年8月~2021年7月期のリフト券の内、シーズン券が占める割合は約61%とのことです。
すなわち、シーズンが始まる前に既に約6割の売上(キャッシュ)があるということで、会社経営にとっては大変ありがたいことです。
運転資金を金融機関等から借り入れる必要がなくなり、金利払いからも解放されます。
北米のスキー場のリフト券は時期により価格変動し、かつ高騰していて、1日券が2万円近い時もあります。
しかし、ベイルリゾートのほとんどのスキー場と提携スキー場で滑ることができるシーズン券、EPIC PASSは早割だと約11万円で購入可能です。(今シーズンはさらに20%オフセールをしています。)
ちなみに、EPIC PASSで八方尾根などのHAKUBA VALLEYのスキー場も5日間滑走可能です。
安いと思いませんか?
他にも、ローカルスキー場のみ滑れるシーズン券などもありますが、どれもリーズナブルな価格です。
スキー場数、利用者数
年次報告書の中で、ローカルスキー場を含め、北米には約745のスキー場があり、そのうち約460か所がアメリカにあるとあります。
一方、新型コロナウイルスの影響で例年より少ないとはいえ、2020/2021シーズンには約7,450万人が北米のスキー場を訪れています。
アメリカのみだとスキー場当たり平均約12.8万人の利用者がありました。
大規模なスキー場を多く抱えるベイルリゾートに限れば、北米34か所のスキー場に約1,390万人が訪れています。
スキー場あたり平均約41万人の利用者があったことになります。
一方日本ですが、小規模なスキー場が乱立しスキー場あたり利用者数は平均約6万人です。
小雪とコロナの影響のない2018/2019シーズンでも、40万人以上の利用者があるスキー場は、発表が4か所、未発表のスキー場を加えても国内で5,6か所と推測します。
日米のスキー場の規模の差が明らかですね。
人口 | 延べ利用者 | スキー場数 | 利用者/スキー場 | |
北米(米・加) | 3億6579万人 | 約7,450万人 | 約745 | 約10万人 |
カナダ | 3759万人 | 約1,550万人 | 約285 | 約5.4万人 |
アメリカ | 3億2820万人 | 約5,900万人 | 約460 | 約13万人 |
ベイルリゾート | 約1,390万人 | 34 | 約41万人 | |
日本 | 1億2630万人 | 約2,529万人(注1) | 約420(注2) | 約6.0万人 |
(注1)2018年度、長野県のスキー場の延べ利用者数は 645万人です。
またスキー場の夏営業およびスキー場以外の索道利用者も含まれていますが、2018年度の長野県の索道旅客数は全国の25.5%です。
これらのことから類推すると全国のスキー場延べ利用者数は2529万人(645万人/25.5%)となります。
(注2)筆者調べ
考察
以上のデータから、日本のスキー場が復活するには2つの重要な要素がそろうことが必要であることが分かります。
スキー場数
1点目は、スキー場が適正な数になることです。
利用者を増やせばよいという考え方もありますが、バブル期を知っている世代としては、あのような異常なスキーブームの再来はないと思いますし、またあってほしくはありません。
もちろん、スキー場の営業努力などにより数10%の利用者の増加は考えらえます。
しかし、その利用者の増加分を考慮したとしても、現在のスキー場数は過剰だと考えられます。
スキー場運営
2点目はスキー場運営会社がリフト・ゴンドラだけではなく、レストラン、レンタルなどの一体運営ができるようになることです。
この点については、歴史のあるスキー場ほど地元の方々の反対が強く、実現には時間がかかりそうです。
この問題が解決できず、売りに出しても買い手が現れない有名スキー場があるのも事実です。
最後に
かつて、アメリカも日本と同じように過剰なスキー場を抱え、経営に苦しんでいた時期があったのですが、スキー場の淘汰が進み、見事に復活を果たしました。
日本のスキー場の再生の道は明白なのですが、既存のスキー場の周辺には、そこに暮らす方々の生活があり、簡単に解決する問題ではありません。
加えて、日本では数多くの自治体所有のスキー場があり、市場原理が働きにくい状況にあります。
年間延べ2千万人以上が実施する魅力あるスノースポーツ、利用者は活気あふれるスキー場の再登場を待ち望んでいます。
なんとかならないものでしょうか。
逆風下でも営業利益約138億円、スキー場経営の王者 Vail Resorts はこちら
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