ブランシュたかやまスキーリゾートは経営状況が厳しく、町が98%出資する株式会社長和町振興公社から、民間資本の新会社へ運営を移管することを模索していました。
当初、新会社の設立を2021年6月に目指していましたが、新型コロナウイルスの影響でスキー場の売り込みが想定以上に落ち込んだことにより出資金の調達が遅れ、2022年に入り株式会社マウント長和の設立にこぎつけました。
そして、2022年4月1日、株式会社マウント長和がブランシュたかやまスキーリゾートの指定管理者となりました。
ブランシュたかやまスキーリゾート
利用者数
新型コロナウイルスの影響もありますが、利用者数は急減しています。
- 2019/2020シーズン:70,731人
- 2020/2021シーズン:43,618人
- 2021/2022シーズン:59,934人
収支
新型コロナウイルスの影響が出る前の2019/2020年シーズンの売上は219百万円でした。
加えて、指定管理料30百万円と雑収入がありましたが、収支は13百万円の赤字でした。
この結果だけをみると、もう少しの努力でどうにかなりそうですが、実は支出の中には索道(リフト)などの施設改修・修繕費などは含まれていません。
これらについては次の章で詳しく説明します。
単位:千円
令和元年度 (2019/2020) |
令和2年度 (2020/2021) |
令和3年度 (2021/2022) |
|
売上収入 | 218,849 | 179,786 | 240,093 |
指定管理料 | 30,000 | 30,000 | 40,000 |
雑収入 | 951 | 8,574 | 9,365 |
支出 | 263,114 | 296,637 | 276,926 |
収支 | ▲13,314 | ▲78,277 | 12,532 |
運営会社
株式会社長和町振興公社
ブランシュたかやまスキーリゾートは、長和町が98%出資する第三セクターの株式会社長和町振興公社が運営していました。
しかし、実質的な町営企業では運営に限界があるとして、民間企業の資本が入った株式会社マウント長和設立を行い運営を引き継ぎました。
長和町振興公社は、長門温泉やすらぎの湯と和田宿温泉のふれあいの湯を、引き続き指定管理者制度により運営し、ケーブルテレビの自主放送番組の制作・放送の業務委託を続けます。
株式会社マウント長和
2022年4月1日より、長和町と民間企業の共同出資で新たに設立された株式会社マウント長和設立は、収益性の高い部門であるブランシュたかやま、信州立岩和紙の里、長和町姫木平自然の家の指定管理者となりました。
スキー場の指定管理料は支払われなくなりましたが、設備投資等は引き続き町が行っていきます。
出資額・比率
- 長和町 : 800万円( 18%)
- 町内25事業者:2,060万円( 46%)
- 町外3事業者 :1,600万円( 36%)
- 合計 :4,460万円(100%)
しかし、創業後2回の決算はいずれも赤字で、前途多難です。
決算期 | 2022年03月31日 | 2023年03月31日 |
純利益 | ▲56万7000円 | ▲5621万9000円 |
利益剰余金 | ▲56万7000円 | ▲5678万6000円 |
株主資本 | 3093万2000円 | ▲1218万6000円 |
施設改修・修繕・備品購入費
スキー場の施設は町有で、施設改修・修繕・備品購入は町の予算で行われます。
当初、公設民営化時には、2021年度から10年間で約16億円の支出が見込むとしていましたが、その後辺地総合整備計画で観光レクリエーション整備事業として5年間で31億7900万円の事業費となりました。
この事業費はスキー場の収支とは関係なく支出される額です。
公設民営化に際して、設備投資見込額として示されました額
- 修繕建設改良費: 1億5300万円(10年間)
- 建設改良費 :14億4600万円(10年間)
- 指定管理料 :2022年4月より指定管理料は廃止
辺地総合整備計画
2022年3月議会定例会において可決された、辺地総合整備計画において、次の記載があり、事業費が示されています。
「昭和60年12月の開設から約36年が経過し、開設当初からの施設も多く、人工降雪システムの改修、リフトの更新、建物施設の更新が必要な状況であり、毎年、状況を精査し更新を少しずつ実施している。現在、人工降雪システム更新の他、リフトの更新が必要な時期が来ている。」
当初の設備投資見込み額より大幅に増額されているようです。
- 2022年度から2026年度まで5年間
- 観光レクリエーション整備事業:31億7900万円
長和町のまちづくり計画について はこちら(ドキュメントが削除されました)
長和町当初予算
- 2021年度:施設改修工事(1億6,000万円)、指定管理委託料(4,000万円)
- 2022年度:施設改修工事(2億4,090万円)
- 2023年度:施設改修・修繕・備品購入(1億7,549万2千円)
ブランシュたかやま周辺のスキー場
長野県茅野市と立科町の境に位置する白樺湖周辺には10か所のスキー場が密集しています。
その中で、首都圏から見た場合、ブランシュたかやま は最遠部に位置していてます。
他のスキー場は、中央道諏訪ICを降り茅野市街を通り抜けビーナスラインでアクセスしますが、ブランシュたかやま は諏訪湖を通り過ぎ長野自動車道に入り岡谷ICより国道142号経由で向かいます。
周辺のスキー場
- 茅野市 ピラタス蓼科スノーリゾート
- 茅野市 蓼科東急スキー場
- 茅野市 白樺湖ロイヤルヒル
- 茅野市 車山高原SKYPARKスキー場
- 諏訪市 ファミリーゲレンデ霧ヶ峰スキー場(市営)
- 立科町 白樺リゾート 池の平スノーパーク
- 立科町 しらかば2in1スキー場(指定管理)
- 立科町 白樺高原国際スキー場(指定管理)
- 長和町 Blue Resort エコーバレー(営業中止中)
- 長和町 ブランシュたかやまスキーリゾート(指定管理)
公式な発表がないため正確な数字は分かりませんが、平年並みの降雪があった2018/19シーズンの利用者数は、全スキー場合計で50~60万人ぐらいと思われます。(筆者推計)
この中で、ブランシュたかやま より利用者数が確実に多いスキー場は車山の約10万人のみです。
また、自治体が運営しているスキー場は、白樺高原国際、しらかば2in1、霧ヶ峰そしてブランシュたかやま の4か所です。
Blue Resort エコーバレー
2020年11月、エコーバレーは2020/21シーズンの営業か営業中止かで揺れ動いていました。
「ながわまちの議会だより」に、長和町から周辺の宿泊施設の経営者のために、営業を行ってほしいとの要請をした、と書いてありました。
最終的には営業中止の判断を下したわけですが、町からの要請が、態度を2転、3転させて一因であることは間違いないでしょう。
その後も営業が再開されることなく、2023/2024シーズンも営業を中止し売却先を探しています。
エコバレーは民営のスキー場なので、赤字を出しても補填してくれるところはありません。
同規模で隣接するブランシュたかやま の運営に多額の補助が必要な状況で、エコーバレーが黒字になるとはとても思えず、民間企業としては当然の判断だと思います。
最後に
スキー人口が急激に増えるとは考えにくい状況の中、利用者を増やす、イコール周辺のスキー場の利用者が減るという図式になる可能性があります。
民営のスキー場は、赤字になっても自治体からその額を補填されることなく、10年後には周辺のスキー場が廃業し、ブランシュたかやま と公営のスキー場だけが残っているかもしれません。
スキー場の淘汰が行われている中、営業努力ではなく、補助金が生殺与奪の権利を握っていると考えると複雑な心境です。
コメント
2021年度の計画から、当初計画と同額の辺地対策事業債を起債することで予算を倍増させていたんですね。16億円ではリフトの更新にも足りないのではないかと思っていましたが、32億あれば降雪機や圧雪車なども含めてごっそりリニューアルできそうです。
でもその割には2022年度に何かされたという話は聞かないような…。ペアリフトの1本くらい、早速更新されていても良かったように思いますし、1年でまとめて全部は業者の手配ができないでしょうから、ちょっとずつやっていかないといけないはずではないかと思われますが、今年度もこれまでのところは何の発表もないように思います。
総合整備計画書を読むと予算規模的にもスキー場存続は間違いなさそうでスキー愛好家としては一安心ですが、辺地債は大部分が交付税として戻ってくるとはいえ、人口5500人ほどの長和町でこの予算規模の支出が本当に適切なのかは不安なところです。(それでも人口700人の王滝村の御嶽スキー場に対する財政支出よりはマシなのかもしれませんが)
どのスキー場も現有設備は設置から概ね30年以上経過となり、ローカルスキー場はいよいよもって、自治体が設備更新費の大規模支出に踏み切らない限り、設備老朽化の限界とともに廃止されていきそうで、諏訪エリアだと2in1あたりが心配です。