2023/2024シーズンに延期、FISレースにおける「フッ素(含むC8フッ化炭素/PFOA)入りワックスの使用禁止」

スキー

FISレースにおけるフッ素(含むC8フッ化炭素/PFOA)入りワックスの使用禁止が再度延期となり、2023/2024シーズンからの実施となりました。
当初は2020/2021シーズンから使用禁止でしたが、検査機器の製造および検査体制の準備が間に合わず、導入が先延ばしとなっていました。
これらの現状を時系列で説明します。

2022年7月11日、SAJは2022/2023シーズンからのフッ素系ワックスの使用禁止の通達を出していますが、8月31日通知内容の訂正と追加があり、C8/PFOAに限らずフッ素成分を含むすべてのワックスのFISおよびSAJ公認大会での使用を禁止としました。

フッ素に関する新ルール

THE INTERNATIONAL SKI COMPETITION RULES (ICR)

FISのプレスリリース等では、C8フッ化炭素/PFOAの使用禁止と書かれていることもありますが、ルール上はフッ素の使用禁止となっています。

THE INTERNATIONAL SKI COMPETITION RULES (ICR)

 BOOK IV
 JOINT REGULATIONS FOR ALPINE SKIING

 APPROVED BY THE FIS CONGRESS AND FIS COUNCIL – JUNE 2022
 EDITION July 2022

ーーー 抜粋 ーーー

222.8 Fluorinated ski wax prohibition

Use of fluorinated wax or tuning products containing fluorine is prohibited for all FIS disciplines and levels.
Fluorinated wax can be a competitive advantage and its use in competition will result in disqualification (see competition rules and equipment specifications).

参考訳

222.8 フッ素入りスキーワックスの使用禁止

フッ素を含むワックスやチューニング製品の使用は、FISの全種目・全レベルで禁止されています。
フッ素入りワックスは競技に有利に働くことがあり、競技での使用は失格となります(競技規則および用具仕様書を参照)。

FIS ALPINE DOCUMENTS はこちら

C8フッ化炭素/PFOA

フッ素は酸化力が大変強い猛毒の気体で、通常はフッ素化合物のことをフッ素と呼んでいます。
スキー、スノーボードなどのワックスに利用される理由は、フッ素化合物は撥水性が高く結果として雪が付きにくいので、雪面抵抗を減少させスピードアップにつながるからです。

C8フッ化炭素/PFOAも、フッ素化合物のひとつです。
FIS発表の原文ではC8 fluorocarbons/PFOAあるいはC8と表記されていますが、全て同じ物質で日本名だと「ペルフルオロオクタン酸」となります。
これは、PFOA(Perfluorooctanoic acid)の日本語読みです。
化学式は「C8HF15O2」で、完全フッ素化された直鎖アルキル基を有するカルボン酸です。
分子中の炭素(C)の数によりフッ素(F)の数が決まるのでC8とも表記されています。
この物質の問題点は、人体内での半減期(半分の量になる期間)が約3年で、発癌性などがあり、人体はもちろん自然環境に有害であるということです。
スキー場が牧草地であれば夏に牛やヤギなどの牧畜が草と一緒にフッ素化合物を体内に取り込むことになります。
また、ワックス時の熱で気化し、人が吸い込む危険性もあります。
このような危険性から、ウインタースポーツに限らず、既に欧米では利用禁止の方向に向かっています。
日本でも指定化学物質に指定されていおり、2017年には、「PFOA」 および「PFOA の塩(えん)」の製造・輸入数量は、0トンとなています。

フッ素検査機器

2022年6月27日から7月1日にかけて、FIS本部のOberhofenでスキーとスノーボードのアルペン競技を対象としたテストセッションが開催されました。
FIS、IBUとBruker社は、フッ素検査機器「Alpha 2」を開発しました。
すでにいくつかのフィールドバリデーションテストが実施され、この装置の精度と正確さが非常に優れていることが示されているとのことです。


Fluor Wax Ban: Test Session at the FIS Headquarters より

国際スキー・スノーボード連盟(FIS)の発表

2022年5月26日、イタリアのミラノで開催された第53回国際スキー会議の総会で、組織の名称を国際スキー・スノーボード連盟(フランス語:Fédération internationale de ski et de snowboard、英語:International Ski and Snowboard Federation)に変更することが承認されました。
略称は引き続きFISとなります。

2022年8月11日 フッ素入りワックスの使用禁止を延期

参考訳

FISは、フッ素検査装置のさらなる改良と競技の完全性を遵守する手順を確立する時間を確保するため、フッ素入りワックスの全面禁止を2023/2024シーズンに延期することを発表しました。
各国の連盟および国際バイアスロン連合(IBU)の専門家の協力のもと、フッ素検査機器の広範なテストを行い、正確な検査結果を出すためにはもっと時間が必要であるとの結論に達しました。
これらの新製品のテストは現在進行中です。
FISは、来たる2022/2023シーズンにおいて、体系的なサンプルテストを強化する予定です。
各国の連盟およびIBUとの密接な協力はフッ素検査機器をさらに洗練させ、2023/2024シーズンにフッ素入りワックスの全面禁止を公正に実施するよう、実用的な実施プロセスおよび規則を定めるために引き続き努めます。
この禁止処置は、スキー・スノーボードに使用されるフッ素入り製品に含まれる化学物質から生じる、人体や環境に対する影響を低減することを目的としています。

FIS postpones full implementation of fluor wax ban はこちら

2021年6月2日 FISフッ素入りワックスの使用禁止

参考訳

FISは、フッ素系ワックスの取り扱いを規制するEUレギュレーション2019/1021(POPレギュレーション)およびECレギュレーション1907/2006(REACHレギュレーション)に基づき、2021/2022シーズン以降、すべてのFIS競技会においてC8フッ化炭素/PFOA(注1)を含む製品を禁止します。フッ素系ワックスに関連する健康リスクと環境への懸念を鑑み、FISはフッ素の全面禁止に取り組み、将来的にフッ素を使用しない大会を実現するためのテスト方法の開発に引き続き取り組んでいきます。
スキー板(注)に付着したフッ素系ワックスを即座に検知するフッ素検知器の導入は、2021/2022シーズン以降に延期されました。来るシーズンでは、ペナルティなしで、競技中に実際に検知を行い検知器をさらにテストします。
残念ながら昨シーズンはCovid-19(新型コロナウイルス)の影響により、検知プロセスの十分なテストが行えませんでした。フッ素検知器の開発における次のステップとC8禁止の効果に関する報告書は、2021年秋の理事会に向けて準備されています。
FISは、競技の公平性を保証する信頼性の高いテスト方法を開発するというコミットを推進します。

(注)原文は「Skis」とありましたが、スノーボードも含まれると思われます。

Update on FIS Fluorinated Ski Wax Ban はこちら

2020年10月9日 フッ素系ワックス使用禁止を、2021/2022シーズンに延期

FIS理事会は、フッ素系ワックス禁止ワーキンググループ(Flourinated Wax Ban Working Group)の勧告に従い、フッ素系ワックス使用禁止の実施を2021年7月1日から始まる2021/22シーズンまで延期することを承認しました。
これは、2020年5月25日に開催された会議で、2020/21シーズンからFISレースの全カテゴリーにおけるフッ素入りのワックスの使用禁止が正式決定されたことを、1シーズン延期する決定です。

概要

この決定により、今シーズン、更に研究室とフィールドでテストを行い、検査手順を確立しのちに検査機器の生産を行い、来シーズンからFISの全カテゴリーでフッ素系ワックスの使用を禁止します。FISは、レースのスタートとフィニッシュ時にスキーやスノーボードに付着したフッ素を検出できる携帯型のフッ素検査機器をテストしました。これらのテストで使用された機器のフッ素測定値の標準誤差は1%未満であり、この機器がフッ素を正確に測定できることを確認しました。
しかし、装置の測定精度にもかかわらず、実地試験の結果、他の側面に関連したことに起因する測定誤差があることが分かりました。
例えば、測定者の測定ミスを低減するために、一定の測定条件を確保するための機器のセンサヘッドの設計改善が必要としていることがわかりました。また、最初の 1,500 回の試験では、材料、構造などに関連した測定誤差を排除するために、測定機器の改善が必要であることが分かりました。加えて、測定機器の安定した動作を保証するためには、周囲の光、温度、気象条件の影響を受ける屋外でのさらなる試験も必要です。

Flourinated Wax Ban implementation to begin in 2021-22 season はこちら

2020年5月25日 フッ素入りワックスの使用禁止が決定

2020年5月25日(月)に開催されたオンライン会議で、2020/2021シーズンからFISレースの全カテゴリーにおけるフッ素入りのワックスの使用禁止が正式決定されました。
2019年暮れに提案されてされていた内容で、正式決定にいたった経緯が記されています。

概要

2019年11月に環境や健康に悪影響を及ぼすことが科学的に示されているフッ素系ワックスの使用を2020/21シーズンから全種目で禁止することが決定されました。
Kompass社が携帯型検査機器を開発しました。プロトタイプのテストが成功することを条件に、規制は2020年11月から実施され、検査はスタートとフィニッシュエリアで実施されます。
測定基準は、2020年夏に行われるテストと検証に基づき決められ、2021/22シーズンの評価結果を持って、2022/23シーズンにはフッ素系化合物の使用をゼロにすることを目標にします。

Decisions of the FIS Council at its Online Spring Meeting 2020 はこちら

質疑応答の様子もありますので、ご興味のある方はどうぞ
Q&A with Roman Kumpost on the ban on fluorinated waxes はこちら

各国の対応

全日本スキー連盟(SAJ)

2022年8月31日 通知内容訂正及び通知内容追加

訂正内容:
2022/2023シーズンより、FIS及び本連盟は、FIS公認大会において、フッ素成分を含むすべてのワックスの使用を禁止する。
※C8/PFOAに限らず、フッ素成分を含むすべてのワックスが対象。

追加内容:
本連盟は、2022/2023シーズンより、SAJ公認大会についてもフッ素成分を含むすべてのワックスの使用を禁止する。

【お知らせ】フッ素系ワックスの使用禁止について(通知内容訂正及び通知内容追加) はこちら

2022年7月11日 フッ素系ワックスの使用禁止について

2022年7月11日、2022/2023シーズンにおけるフッ素系ワックスに関する使用禁止の通達がありました。
検査方法が確立していないので、少し歯切れの悪い表現ですが、使用禁止を訴えています。

「皆様ご存知のとおり、FIS(国際スキー&スノーボード連盟)では2020年に2022/2023シーズン以降のすべてのFIS公認大会においてC8/PFOAを含むフッ素系ワックスの使用禁止を決定しております(ICR第222.8条)。この決定は、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)が、フッ素を含む有機化合物で、自然界において殆ど分解されない性質があり、そのため、PFOAを蓄積した自然環境を介して、人間の体内に取り込まれ蓄積し、この蓄積により、子供の出生時の体重減少、糖尿病、甲状腺の代謝障害等の健康被害が懸念されることから、EU規則2019/1021(POP規制)およびEC規則1907/2006(REACH-規制)で、同ワックスの生産、取引及び使用を禁止したことに起因します。

FISの上記決定を受け、本連盟は、関係各位に対して、2022/2023シーズンより、FIS公認大会におけるC8/PFOAを含むフッ素系ワックスの使用禁止を強く指示いたします。」

全文です。
【お知らせ】フッ素系ワックスの使用禁止について(通知) はこちら

U.S. Ski & Snowboard(米)と Canadian Ski Association(カナダ)

元の発表から追記があり、分かりにくい文章になっていますが、現時点での結論はフッ素入りワックスの使用を認める方向です。
少し前の日付ですが、この文章が最新のようです。

ーーー 抜粋して翻訳 ーーー

アメリカ内でのFIS公認レース

FISによるフルオロカーボンの使用禁止は2021年夏まで延期されました。 したがって、2020/21年シーズンのFIS公認大会では、フロロカーボンのテストや、フロロカーボンを使用した場合の課徴金はありません。フロロカーボンワックスの使用禁止を希望するイベントは、そのイベントをFISのカレンダーから削除し、National Ranking Listイベントとして開催してください。

U.S. Ski & Snowboardは、FIS公認イベントにおいてフロロカーボンを禁止しようとするイベント主催者に対し、強く警告します。なぜならば、FISはフロロカーボンを使用した選手に対して制裁を与えることができません。イベント主催者がフルオロカーボンを制限することは、競技結果や海外遠征の選抜に影響を与え、FISポイント獲得に悪影響を与える可能性があり、そのことによりイベントの尊厳を損なう危険性があります。

Fluorocarbon Wax Ban はこちら

ワックスメーカーの対応

各ワックスメーカーの対応状況です。

GALLIUM

株式会社ガリウム

PFOA/C8を含む製品を発売していないことをHPで明言。

SWIX

SwixはProラインの製品ではフッ素を利用していないと明言しています。
逆に言うと、その他の製品ラインはフッ素を利用している可能性が高いのでお気を付けください。

Swixがフッ素フリーのワックスを発売開始 はこちら

最後に

フッ素入りワックスが使用禁止になることは、環境にはもちろん、選手にとっても朗報です。
実際に使用されている方は良くご存じだと思いますが、スタートワックスと言う名の大変高価な粉もあり、フッ素化合物が使用禁止になれば、スポンサーのいない選手にとっては金銭的な負担が減ります。

スポーツは生身の人間がその技能を競うものなので、フッ素入りワックスが使用禁止となっても競技そのもの公平性は保たれるので、環境に悪影響を与える物質は早く廃止してほしいですね。

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